
RFPに「戦略」と書いても「制作見積」しか出てこない理由

- 提案指示書(RFP)に「戦略から提案してほしい」と書いても、返ってくるのは制作スコープの見積書であることが多い。
- これは制作会社の怠慢ではなく、「戦略設計」と「制作」が別のサービスだからだ。予算を決めてからRFPを出し、コンペで比較する。この発注プロセス自体が、良い提案を遠ざけている。
- 本当に必要なのは、RFPの書き方ではなく、書く前に何を整理すべきかを知ることだ。
- 問題は「書き方」ではない
「戦略から提案してほしい」
RFPにそう書いて、予算も納期も明記した。数社に声をかけ、提案を待って届いたのは、ページ単価と制作スコープの見積書だった。
この体験は珍しくない。私たちのもとには「制作会社から良い提案が来なかった」という相談が届く。
RFPの書き方が悪かったのだろうか。情報が足りなかったのか。もっと詳細に要件を詰めるべきだったのか。
Web上には「RFPの書き方」を解説する記事が溢れている。テンプレートをダウンロードし、項目を埋め、複数社に配布すれば良い提案が来る。そう書いてある。
私たちの見方は違う。
RFPを詳細に書いても、良い提案が来るとは限らない。問題は書き方ではなく、書く前の整理にある。何を依頼するのか。どんな提案を「良い」と判断するのか。ここが曖昧なまま項目を埋めても、返ってくるのはどこまて言っても「制作見積」になってしまう。
この記事では、3つの視点を共有する。「戦略」と「制作」はなぜ噛み合わないのか。コンペはなぜ価格比較に堕ちるのか。そして、RFPを書く前に何を整理すべきなのか。
- 「戦略」と「制作」は別の商材である
発注者が期待する「戦略」と、制作会社が提案する「戦略」
「戦略から提案してほしい」。
この一文がRFPに含まれているとき、発注者と制作会社の間には、ほぼ確実に認識のズレがある。
発注者が期待しているのは、こういう問いへの答えだ。この会社は誰に、何を、どう伝えるべきか。投資家なのか、求職者なのか、顧客なのか。何を語れば、彼らの認識が変わるのか。どんな順番で、どんな文脈で伝えれば、行動につながるのか。
一方制作会社が提案するのは、別のレイヤーの話。トップページの構成はどうするか。下層ページは何ページ必要か。CMSは何を使うか。スマートフォン対応はどこまでやるか。
前者は「何を語るか」の設計で後者は「どう作るか」の設計。どちらも「戦略」と呼ばれることがあるが、まったく別の仕事である。
制作会社のビジネスモデルの構造的限界
これは制作会社の怠慢ではなく構造の問題であると私は考えている。
制作会社の収益モデルは、基本的に「ページ単価×ページ数」ないしは「時間単価×時間数」で成り立っている。デザイン、コーディング、CMS構築。これらの工数を積み上げて見積もりを出していく。提案段階で「戦略設計」に時間をかけても、それは見積もり上「ディレクション費」という曖昧な項目に丸められる。そうでなければ、受注できるかどうか分からないコンペのために、無償で戦略を考えることになる。
だから、RFPに「戦略から提案してほしい」と書いてあっても、制作会社が返せるのは「どう作るか」の提案になる。彼らの本業はそこだからだ。
「何を語るか」の設計は、制作とは別の専門性であり、別のサービスである。コンサルティングファームが請け負うこともあれば、事業会社の中で内製されることもある。制作会社に当たり前にこの設計を期待すること自体が、認識の齟齬である場合も多い。
- コンペが価格比較に堕ちる理由
判断基準がないまま複数社に声をかけている
RFPを数社に送り、提案を受け、比較する。この流れ自体は合理的に見える。しかし現実には、コンペは価格比較に収斂することが多い。
原因は単純だ。提案の良し悪しを判断する基準が、発注者側にない。
各社から届く提案は、形式も切り口もバラバラだ。A社はデザインの方向性を詳しく語り、B社は技術的な堅牢性を強調し、C社はスケジュールの現実性を訴える。どれも正しそうに見える。しかし、自社にとって何が重要なのかが定まっていなければ、比較のしようがない。
お客様に話を聞くと必ず「どうくらべればいいかわからなくて疲れた。」というコメントが出る。
そうなると、比較可能な唯一の指標に頼ることになる。価格だ。
「一番安いところにしよう」という結論は、判断基準がない以上、自然に導かれている結論とも言える。
「良い提案」を見分けるには、自社の課題が言語化されている必要がある
RFPを詳細に書くことと、自社の課題を言語化することは、似ているようで全く違う。
よくあるRFPのテンプレートには「予算」「納期」「ページ数」「機能要件」を書く欄がある。これらを埋めることはできる。しかし、「なぜこの投資をするのか」「何が解決されれば成功なのか」が言語化されていなければ、提案を評価する軸が作れない。
たとえば「IRサイトをリニューアルしたい」という依頼があるとする。ページ数も予算も決まっているが、なぜリニューアルが必要なのかを突き詰められていない。投資家からの問い合わせが減っているのか。情報が古くなっているのか。競合と比較して見劣りするのか。それとも、経営陣の交代に伴いメッセージを刷新したいのか。
課題が違えば、良い提案の定義も変わる。課題が曖昧なまま提案を並べても、評価はできない。
- 予算確定→RFP→コンペ、の順番が生む問題
予算が先に決まっていることの弊害
多くの企業では、予算取りが先に行われる。来期の予算枠を確保し、その範囲内で発注先を探す。
これは社内プロセスとしては自然な流れだ。しかし、この順番が問題を生んでいると私は考えている。
予算が先に決まると、「この予算で何ができるか」という思考になる。本来は「この課題を解決するには何が必要か」から始まるべきだ。順番が逆になると、必要な投資ができないか、あるいは予算を使い切るための制作になる。
そして後者のほうがたちが悪い。「予算が余っているから使い切らなければ」という圧力は、地に足のついた制作に繋がらない。本当は50ページで十分なのに80ページ作る。本当は来期に回すべき機能を今期に詰め込むなど、事業戦略と足並みの揃わない意思決定がされた結果、効果のきないサイトが納品される。
未成熟なサービスでは致命的になる
そしてこの問題は、新規事業や新サービスのサイト制作で特に深刻な影響をもたらすものだ。
成熟したサービスであれば、過去の実績からある程度の予算感は見える。しかし、まだ市場が定まっていないサービスでは、「誰に、何を、どう伝えるか」自体が仮説だ。仮説を検証しながら、段階的に投資していく必要がある。
予算を先に固定し、一度に全部作る。この発注方式では、仮説検証ができない。ターゲット市場を間違えていても、気づくのは公開後だ。そのときには予算を使い切っており、来年また・・・となっていくのである(当然その時には市況が変わっている(。
受託ビジネスの本質はソリューションである
制作会社やコンサルティングファームに仕事を依頼するとき、発注者は「成果物」を買っていると思いがちだ。しかし、私が思うに受託ビジネスの本質はソリューションの提供である。課題を解決することが目的であり、成果物はその手段にすぎない。
だからこそ、予算を取る「前」に相談していただくのが理想的だ。課題を共有し、何が必要かを一緒に設計する。その上で、必要な投資額を見積もる。この順番であれば、「予算ありき」の制約から自由になれる。
RFPを出してからでは遅い。RFPは「これを作ってください」という依頼書であり、「何を作るべきか」を一緒に考えてほしいなら、RFPを出す前から伴走させていただきたい。
- 提案を評価する5つの判断基準
コンペで価格比較に陥らないためには、事前に判断基準を持っておく必要がある。以下の5つは、私たちが自社で作る提案を評価するときに使っている観点だ。
課題の理解が言語化されているか
提案書の冒頭で、発注者の課題がどう整理されているかを見る。伝えた情報をなぞっているだけか、それとも「本当の課題はここではないか」という仮説を立てているか。後者ができている提案は、制作開始後の手戻りが少ない。
「何を作るか」の前に「何を語るか」が設計されているか
サイトマップやワイヤーフレームの前に、メッセージの設計があるか。誰に、何を、どんな順番で伝えるのか。この設計がないまま「トップページはこう、下層はこう」と進む提案は、作ることが目的化している。
成果指標と制作物が接続しているか
「このサイトで何を達成するのか」と「だからこの構成にする」がつながっているか。KPIを設定している提案は多いが、そのKPIとサイト構成の関係が説明されていない提案も多い。数字を置いているだけでは意味がない。
段階的な投資設計が提案されているか
一度に全部作るのではなく、フェーズを分けて投資する設計があるか。特に、仮説検証が必要なプロジェクトでは重要な観点だ。「まずここを作って効果を見て、次にここを拡張する」という提案ができる会社は、投資対効果の視点を持っており、貴社の良いパートナーになるだろう。
制作後の運用・改善が視野に入っているか
納品して終わりではなく、その後の運用や改善について言及があるか。サイトは作った瞬間から劣化が始まる。更新の体制、改善のサイクル、計測の仕組み。これらを視野に入れた提案かどうかで、パートナーとしての姿勢が分かる。
- RFPの項目を埋めるのは「最後」でいい
競合記事が最初に語る「書き方」の話
RFPの書き方を解説する記事は、ほぼ例外なく「項目の埋め方」から入る。プロジェクト概要、予算、納期、ページ数、機能要件、デザインの方向性。テンプレートをダウンロードして、順番に埋めていく。
これらの項目は必要だ。しかし、埋めるのは最後でいい。
ページ数は、何を伝えるかが決まらなければ決められない。予算は、何を達成したいかが決まらなければ適正値が分からない。機能要件は、誰がどう使うかが決まらなければ列挙できない。
項目を先に埋めようとするから、「とりあえず30ページ」「とりあえず300万円」という数字が入る。そして、その数字に縛られた提案が返ってくる。
RFPを書く前に整理すべき3つの問い
項目を埋める前に、以下の3つを整理する。
この投資で何を達成したいのか。 PVを増やしたい、問い合わせを増やしたい、という表面的な目標ではない。なぜそれを達成したいのか。達成されると何が変わるのか。ここが言語化されていないと、提案を評価する軸がない。
誰に、何を、どう伝えたいのか。 サイトを訪れる人は誰か。その人は何を知りたいのか。どんな順番で情報を伝えれば、行動につながるのか。これが「戦略」と呼ばれるものの正体だ。
それを実現できるパートナーをどう見分けるか。 前述の5つの判断基準でもいいし、自社なりの基準でもいい。大事なのは、提案を受ける前に基準を持っておくことだ。基準がなければ、価格で選ぶしかなくなる。
- 発注プロセスを再設計するチェックリスト
1. 課題を言語化する 予算を決める前に、なぜこの投資が必要なのかを整理する。現状の何が問題で、何が解決されれば成功なのか。これが曖昧なまま進めると、すべてが曖昧になる。
2. 「戦略」と「制作」のどちらを依頼するのかを明確にする 「何を語るか」の設計が必要なのか、「どう作るか」の実装が必要なのか。両方必要なら、別々の専門家に依頼することも選択肢に入る。制作会社に戦略を期待するなら、それができる会社かどうかを見極める。
3. 提案を評価する判断基準を持つ RFPを出す前に、どんな提案を「良い」と判断するのかを決めておく。基準がなければ比較ができない。比較ができなければ価格で選ぶしかない。
4. 予算は課題から逆算して設計する 予算枠を先に決めて、その中で何ができるかを考えるのではない。課題を解決するには何が必要で、それにいくらかかるのかを設計する。必要なら、段階的に投資するプランを作る。
5. RFPの項目を埋める ここまで整理ができて初めて、ページ数や機能要件を具体化できる。項目を埋めるのは最後だ。
この順番を逆にすると、「戦略から提案してほしい」と書いたRFPに、単なる制作見積が返ってくる可能性が高い、というのが結論である。



