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「イラストか写真か」で迷う前に——ブランディングのビジュアル選択で確認したい論点

戦略とクリエイティブ
12 minutes
TL;DR
  • 「イラストか写真か」は、印象や「トンマナ」で決める判断ではない。
  • ブランディングにおけるビジュアルの選択には3つの層がある。
  • 第1層は「ビジュアル優位か、テキスト優位か」。第2層は「写真か、イラストか」。第3層は「どの作風か」。作風はそれ自体がブランドを帯びる。
  • 順序を逆に決めれば、ブランドイメージが意図せず発信されてしまうリスクがある。
  1. ビジュアル選択は「トンマナ」ではなく「構造」で決める——3つの層を整理する

コーポレートサイトやサービスサイトのリニューアル案件で、毎回のように起きる議論がある。「イラストを使うか、写真を使うか」。

担当者の多くは「ブランドのトーン&マナーに合うのはどちらか」という観点で判断する。温かみを出したいならイラスト。信頼感を出したいなら写真。

一読して確かに、と思うかもしれないがこの判断の仕方には問題があると考えている。

「トンマナに合うか」でビジュアルを選ぶと、ブランド自体がビジュアルに引きずられる。たとえば水彩タッチのイラストを採用した瞬間、企業のブランドは「水彩タッチの世界」に位置づけられる。選んだ側にそのつもりがなくても、受け手はそう認識する。

この記事で整理するのは、「イラストか写真か」を判断する前にある、3つの層だ。

  • 第1層:そもそもビジュアル優位で語るべきか、テキスト優位で語るべきか

  • 第2層:ビジュアルで語るとして、写真とイラストのどちらか

  • 第3層:イラストを選ぶとして、どの作風か

それぞれの層には判断基準があり、そして、これを逆の順序で決めると、ほぼ必ず破綻する。

  1. 「イラストは柔らかい、写真は硬い」では判断できない

ビジュアル選択の議論では、「イラストは柔らかい印象、写真は硬い印象」という二分法がよく持ち出される。制作会社の提案資料にも、担当者同士の議論にも繰り返し登場する。

当社のデザイナーも気を抜くとこういう説明をしてくる。

しかしこの二分法は、少し考えれば成立していない。

「柔らかいイラスト」も「硬いイラスト」も、ありうる

たとえば、少年ジャンプのイラストと、ちゃおのイラストを並べてみる。どちらもイラストで描かれている。しかし両者から受ける印象は、ほぼ正反対だ。前者は熱量、対戦、少年期のエネルギー。後者は少女の夢、ときめき、柔らかい配色と丸い線。

どちらが「柔らかい」のかと問われたら、誰もが後者と答える。では前者は?少なくとも「柔らかい」ではない(柔らかい絵の作品もあるが)。

そもそも「ジャンプっぽい絵柄」「少女漫画っぽい絵柄」というのは言語化に長けたデザイナーでなくてもなんとなくイメージを持っている人が多いだろう。

同じイラストという形式の中に、これほど違う印象がある。つまりイラストそれ自体には、「柔らかい」という属性はない。イラストが柔らかく見えるのは、そう見えるように作風が選ばれているからだ。

写真にも同じことが言える

写真の側にも同じ構造がある。同じ人物を、スタジオで明るく撮った広告写真と、モノクロのドキュメンタリー写真で比較すれば、受け手の感じる温度はまったく違う。被写体が同じでも、光の当て方、構図、色調で印象は大きく変わる

ただし写真の場合、印象が変わっても「被写体がその人である」ことは変わらない。この非対称性は、次のセクションで扱う論点だ。

「柔らかさ」は形式の属性ではなく、作風の属性

ここまでで確認できるのは、ひとつの事実だ。「柔らかい/硬い」は、イラストか写真かという形式の問題ではなく、選ばれた作風の問題である。

だから「柔らかくしたいからイラストにする」という判断は、前提から成立していない。選ぶべきは「どの作風か」であり、「イラストか写真か」ではない

そして「作風を選ぶ」という行為には、別のレイヤーの判断が必要になる。

  1. 第1層:ビジュアル優位か、テキスト優位か

「イラストか写真か」を判断する前に、決まっているべき問いがある。そもそも、ビジュアルで語るべきなのか、テキストで語るべきなのか

この判断は、ほとんどの現場で飛ばされている。ビジュアルを使うことが所与になっていて、議論は「どんなビジュアルを」に直接入る。

しかし、コミュニケーション設計においてビジュアル優位が常に正解とは限らない。

概念理解が先のとき、ビジュアルは邪魔になる

たとえば、ある大手企業が新しいサービスを立ち上げたとする。そのサービスは、既存の親ブランドの中に位置づけられるサブコンテンツだ。読者はまず「何をするサービスか」「従来の何と違うのか」「誰のためなのか」を理解する必要がある。

この段階で、強いビジュアルを使うとどうなるか。

読者は、サービスの中身を理解する前に、ビジュアルから先にブランドを認識する。「親しみやすい水彩タッチだな」「スタイリッシュな写真だな」。そしてその印象が、サービス理解の前に記憶に残る。本来伝えたかったサービスの輪郭は、ビジュアルの印象に埋もれる。

さらに、サブコンテンツとして独自の作風を持ってしまうと、受け手はそれを親ブランドから独立した別のものとして認識する。結果として、親ブランドの信頼や文脈という資産が活かされない。

概念理解が最優先のフェーズでは、テキストが主役で、ビジュアルは補助に回るケースが多いのではというのが私の経験である

必要最小限の図解、シンプルなアイコン、抑制された写真。強い作風のイラストを入れると、ブランドが勝手に立ち上がり、概念理解を阻む

ブランド確立が目的のとき、ビジュアルが主役になる

一方で、読者がサービスの中身をすでに知っていて、「どの会社のサービスを選ぶか」を情緒で判断する段階もある。商品としてのコモディティ化が進み、機能で差別化できない市場。この段階では、ビジュアルが主役になりうる。

たとえば、ライフスタイルブランドやD2C商品のように、読者が「何を買うか」ではなく「どの世界観を選ぶか」で判断する商材。あるいは、既に高い認知を持つ大手企業が、新世代の顧客に対してブランドを更新したい場面。こうしたケースでは、ビジュアル優位で設計し、作風で世界観を決めることは非常に有効になる

第1層の判断軸:読者は、概念を知っているか

この層の判断軸は、「読者は、このサービスやブランドの概念を、すでに知っているか」。

知らない読者に対しては、テキスト優位で概念理解を優先する。知っている読者に対しては、ビジュアル優位で世界観を打ち出す。

現場でよく起きる失敗は、この判断を飛ばして「他社がやっているから」「見栄えが良いから」という理由でビジュアル優位を選ぶことだ。読者がまだ概念を知らない段階でビジュアルを強くすれば、ブランドは立ち上がるが、肝心のサービス理解は進まない

もちろんビジュアルコンセプトを全面に押し出して立ち上げていくブランドも存在するが、それについてはいったんおいておきたい。

第1層の判断が定まって初めて、次の層(写真かイラストか)の議論に入れる。

  1. 第2層:写真か、イラストか

第1層で「ビジュアル優位」と決まった場合、次に来るのが「写真か、イラストか」の判断だ。

ここでよく起きるのが、第1層と同じく「印象」で選ぶやり方だ。温かくしたいからイラスト。信頼感を出したいから写真。差別化したいからイラスト。この判断も、印象ではなく構造で決める領域にある。

写真とイラストは、受け手が何を主体として認識するかがまったく違う。

写真の主体は「被写体」

写真を見るとき、受け手は基本的に「そこに写っている人」や「もの」を認識する。同じ人物を、スタジオ撮影、モノクロ、広告用、スナップなど、さまざまな撮り方で表現できる。しかしどう撮られても、受け手は「この人は〇〇さんだ」「これはあの商品だ」と、まず被写体を特定する。

光の当て方、構図、色調の調整で、雰囲気は大きく変わる。変わるのは雰囲気であり、被写体ではない。つまり写真は、被写体を主体として認識させるコミュニケーションであると私は考えている

イラストの主体は「作風」

イラストはこれと違った機能を持つ。イラストを見るとき、受け手はまず作風を認識する。何が描かれているかよりも、「どう描かれているか」が先に届く

わかりやすい例がピクサーとディズニーだ。『モンスターズ・インク』も『ズートピア』も、作品ごとにキャラクターも世界観もまったく違う。にもかかわらず、受け手はどちらを見ても「ピクサーだ」と認識する。キャラクター個体ではなく、ピクサーという作風が、受け手の中でブランドとして先に立ち上がる。

これは日本のマンガでも同じだ。少年ジャンプの連載とちゃおの連載は、掲載雑誌を明かさなくても、線や色使いを見ただけで多くの読者が判別できる。作品のタイトルやキャラクターよりも、「ジャンプっぽい絵」「ちゃおっぽい絵」という作風認識が先に働く。

つまりイラストは、作風を主体として認識させてしまう

非対称性が意味すること

写真とイラストの違いを整理すると、こうなる。

写真は、被写体が主体で、作風(撮り方)は従属する。だから撮り方を変えても、ブランドは引きずられにくい。モノクロで撮ろうが広告用に撮ろうが、「〇〇社のコーポレートサイトに掲載された、〇〇さんの写真」であり続ける。

イラストは、作風が主体で、描かれた対象は従属する。作風を選んだ瞬間、ブランドが決まる。水彩タッチを選べば「水彩タッチの企業」、フラットで幾何学的なイラストを選べば「モダンで機械的な企業」として認識される。

この非対称性を把握しないまま「なんとなくイラスト」を選ぶと、意図していなかったブランドが勝手に立ち上がる。制作会社から提示されたサンプルのイラストレーター名を、そのまま自社のブランドとして背負うことになる。

第2層の判断軸は、シンプルだ。「自社のブランドを、作風で強制される準備ができているか」。準備ができていなければ、写真を選ぶほうが安全かもしれない

  1. 第3層:どの作風か——ブランドの独立度と見合わせる

第1層で「ビジュアル優位」、第2層で「イラスト」と決まった場合、最後に来るのが「どの作風か」の判断だ。

この判断は、イラストレーターの選定、あるいは作風サンプルの選定という形で現れる。水彩タッチ、フラットイラスト、手描き風、3D、アニメ調。作風の選択肢は無数にある。

ここでよくある失敗は、「かっこいいから」「新しいから」「他社がやっていないから」という理由で、作風を選ぶことだ。その瞬間、ブランドが勝手に立ち上がる。問題は、立ち上がったブランドの強度と、自社のブランドの独立度が釣り合っているかどうかにある。

作風の強度は、ブランドの独立度に比例させる

作風には強度の違いがある。独自性の高い作家的なイラストは強い。記号的で中立的なアイコンは弱い。強い作風ほど、ブランドを明確に立ち上げる力を持つ

一方で、企業にとっての「ブランドの独立度」にも違いがある。独立した新ブランドとして立ち上げる場合は、独立度は高い。親会社のコーポレートブランドの一部として運営されるサービスは、独立度が低い

この二つを揃える必要がある。強い作風は、独立度の高いブランドでしか機能しない。独立度の低いサブコンテンツに強い作風を入れると、親ブランドから浮いてしまう
意図的にこれまでと違った会社の新しい顔を見せたいのでなければ、強すぎる作風は発信の一貫性を損ない、親ブランドの価値を毀損する事さえある

「ディズニーの中のディズニーチャンネル」という比喩

わかりやすい比喩がある。ディズニー本体と、ディズニーチャンネルの中のひとつの番組の関係だ。

ディズニー本体は、独立したブランドとして強いビジュアル言語を持っている。ピクサーも独立したブランドとして強い作風を持っている。これらは、それぞれが単体で世界観を背負える規模と成熟度がある。

しかしディズニーチャンネル内のひとつの番組コンテンツが、独自の強い作風を持とうとするとどうなるか。受け手の認識の中で、「ディズニーの中の番組」ではなく「別のブランドの番組」に見え始める。親ブランドであるディズニーの資産が、その番組には届かなくなる。

企業のサービスブランディングでも、同じ構造が起きる。

たとえば、ある大手メーカーが社内で新サービスを立ち上げる場合。このサービスは、親会社のブランドの中にあるサブコンテンツだ。ここに独自の強いイラストを入れると、サービスは「親会社のサービス」ではなく「独立した別の会社のサービス」のように見える。親会社の信頼を活用したいのに、視覚的に切り離されて見える。

成熟度を超えた作風は、ブランドを薄める

この失敗は、現場でかなり頻繁に起きる。

制作会社から「差別化のためにこのイラストレーターを起用したい」「話題のテイストで他社と差をつけたい」という提案が来る。担当者は見栄えがよいのでつい承認する。ローンチ後、サービスは「いいビジュアルだけど、どこの会社のサービスかよく覚えていない」と認識される。

原因は、ブランドの独立度と作風の強度が釣り合っていなかったことにある。サブコンテンツに独立ブランド級の作風を載せてしまえば、どちらの役割も果たせない。親ブランドの資産は活用されず、新しい独立ブランドとして認知されるほどのマーケティング投資もない

第3層の判断軸は、「このサービスやコンテンツは、どのくらい独立したブランドとして立ち上げたいのか」としておきたい。独立度が高ければ、強い作風を選ぶ。独立度が低ければ、作風を抑え、親ブランドの視覚言語に寄せる。

  1. まとめ——ブランディングのビジュアル選択、決まる順序

ブランディングでイラストを使うか写真を使うかは、印象ではなく構造で決める判断だ。その構造は、3つの層に整理できる。

それぞれの判断を、実行すべき順番で並べる。

1. 第1層:読者は、このサービスやブランドの概念をすでに知っているか 知らない読者にはテキスト優位で概念理解を優先する。知っている読者にはビジュアル優位で世界観を打ち出す。

2. 第2層:ビジュアルで語ると決めたとき、受け手に何を主体として認識させたいか 被写体を主体にしたいなら写真。作風を主体にするなら、作風でブランドが決まることを覚悟してイラストを選ぶ。

3. 第3層:イラストを選ぶとき、このブランドの独立度はどれくらいか 独立した新ブランドなら強い作風、親ブランドのサブコンテンツなら作風を抑え、親ブランドの視覚言語に寄せる。

4. 作風の選定には、ブランド全体を見る視点を入れる ビジュアルの見栄えだけで決めない。選ばれた作風は、そのまま自社のブランドになる。

この順序を逆にすると、作風が先に決まり、それに引きずられてブランドが決まる。意図していなかった位置に、会社が立たされることになりかねないので注意が必要だろう。

AUTHOR記事の執筆・監修
古山 恵理

古山 恵理

CEO / Strategic Director -undergraffiti. Ltd.

東京大学公共政策大学院修了(MPP)。官公庁・上場企業にて経営戦略・IR・サステナビリティ領域のアナリストを歴任。高い開示要求にさらされる業界の現場で「伝える責任」の実務を積んだ後、2020年に独立。大手通信・エネルギー企業等に対し、ブランド戦略から情報設計・体験設計・運用改善までを一気通貫で支援。現在はコーポレートコミュニケーションの戦略設計を専業とし、上場企業のIRサイト・統合報告書・コーポレートサイトの編集戦略ディレクションを手がける。

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