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ブランディングのイラストと写真、どう使い分けるか:ビジュアル選択の判断基準

戦略とクリエイティブ
10 minutes
TL;DR
  • 「イラストか写真か」を印象やトンマナで決めると、議論は揺れ続ける。
  • ビジュアル選択には順序がある。①そもそもビジュアルで語るか、②写真かイラストか、③どの作風か。
  • 写真は被写体が、イラストは作風が主体として認識される。作風は選んだ瞬間にそれ自体がブランドになる。
  • この判断基準を、私たちが写真ではなくアイコン群を選んだ実案件とあわせて整理する。

1. ブランディングのビジュアルは、なぜ「イラストか写真か」から決められないのか

コーポレートサイトやサービスサイトのリニューアル、営業資料の刷新。ブランディングの現場では、ほぼ確実にこの二択が議題に上がる。「イラストを使うか、写真を使うか」。

そして、ほぼ確実にこの議論はもめる。

理由は単純で、判断材料が印象主観的な印象語だからだ。柔らかくしたい、信頼感がほしい、温かみを出したい、先進的に見せたい。どの言葉も間違ってはいないが、印象語は人によって指すものが違う。ある担当者の「柔らかい」はパステル調のイラストで、別の役員の「柔らかい」は自然光の人物写真かもしれない。印象語を根拠にすると、議論はお好みの表明合戦になり、決まったとしても「なぜそれなのか」を後から説明できない。

私たちは、この二択には答える順序があると考えている。「イラストか写真か」の前後に、決めるべきことが2つある。

第1層:そもそもビジュアル優位で語るべきか、テキスト優位で語るべきか。

第2層:ビジュアルで語るとして、写真とイラストのどちらか。

第3層:イラストを選ぶとして、どの作風か。

この3つは印象の問題ではなく、それぞれに構造的な判断基準があり、順序を飛ばすと後の判断がなりたたなくなってしまう。本稿では、この3つの層を順番に整理し、あわせて私たちが実際の案件で写真ではなくイラストを選んだ判断を紹介する。

2. 第1層:ビジュアル優位か、テキスト優位か

「イラストか写真か」の前に、応えるべき問いがある。そもそも、ビジュアルで語るべきなのか、テキストで語るべきなのか。

この判断は、多くの現場で飛ばされている。ビジュアルを使うことが所与になっていて、議論は「どんなビジュアルを」に直接入る。しかし、コミュニケーション設計においてビジュアル優位が常に正解とは限らない。

概念理解が先のとき、ビジュアルは理解を妨げる

たとえば、ある大手企業が新しいサービスを立ち上げたとする。そのサービスは、既存の親ブランドの中に位置づけられるサブコンテンツだ。読者はまず「何をするサービスか」「従来の何と違うのか」「誰のためなのか」を理解する必要がある。

この段階で強いビジュアルを使うと、読者はサービスの中身を理解する前に、ビジュアルから先にブランドを認識する。「親しみやすい水彩タッチだな」「スタイリッシュな写真だな」。その印象がサービス理解の前に記憶に残り、本来伝えたかったサービスの輪郭は、ビジュアルの印象に埋もれる。

概念理解が最優先のフェーズでは、テキストが主役で、ビジュアルは補助に回るケースが多い、というのが私たちの経験である。必要最小限の図解、シンプルなアイコン、抑制された写真。強い作風のビジュアルを入れると、ブランドが勝手に立ち上がり、概念理解を妨げる。

ブランド確立が目的のとき、ビジュアルが主役になる

一方で、読者がサービスの中身をすでに知っていて、「どの会社を選ぶか」を情緒で判断する段階もある。機能の差別化が難しくなった市場、あるいは「何を買うか」より「どの世界観を選ぶか」で判断される商材。この段階では、ビジュアルが主役になりうる。

第1層の判断軸:読者は、概念をすでに知っているか

知らない読者に対しては、テキスト優位で概念理解を優先する。知っている読者に対しては、ビジュアル優位で世界観を打ち出す。

現場でよく起きる失敗は、この判断を飛ばして「他社がやっているから」「見栄えが良いから」という理由でビジュアル優位を選ぶことだ。読者がまだ概念を知らない段階でビジュアルを強くすれば、ブランドのイメージは確かに立ち上がるが、肝心のサービス理解は進まない。

第1層の判断が定まって初めて、次の層の議論に入れる。

3. 第2層:写真とイラストの違いは、受け手が何を主体として認識するか

第1層で「ビジュアル優位」と決まった場合、次に来るのが「写真か、イラストか」の判断だ。

ここで冒頭の印象語が戻ってくる。柔らかくしたいからイラスト、信頼感を出したいから写真。現場でよく聞く判断だが、私たちはこの決め方はしない。柔らかさや信頼感は、作風に大きく左右されるからだ。

印象は形式ではなく、作風に宿る

たとえば、少年漫画のイラストと、少女漫画のイラストを並べてみる。どちらも同じ「イラスト」という形式だが、前者からは熱量と勢いが、後者からは柔らかい配色とときめきを感じる。正反対の印象である。

写真も同じだ。同じ人物を同じ場所で撮っても、木漏れ日のライティングとモノクロに落とした一枚とでは、受け手の感じるイメージはまったく違う。ただし写真の場合、印象が変わっても、写っているのがその人であることは変わらない。この違いが次の論点になる。

イラストが柔らかく見えるとき、柔らかいのはイラストという形式ではない。そう見えるように選ばれた作風だ。だから「柔らかくしたいからイラスト」という判断は、実際には作風の議論を形式の議論に押し込めている。では、写真とイラストの形式そのものには、何の違いがあるのか。



写真は被写体が主体、イラストは作風が主体

写真を見るとき、受け手はまず「そこに写っている人」や「もの」を認識する。撮り方で雰囲気は大きく変わるが、変わるのは雰囲気であって被写体ではない。モノクロで撮ろうが広告用に撮ろうが、「〇〇社のサイトに載った、〇〇さんの写真」であり続ける。写真は、被写体を主体として認識させる形式だ。

ただし、この整理には限定がある。ここで言う写真は、人物・商品・場所といった被写体が識別できる写真だ。被写体の識別を意図的に手放した抽象的なアート写真では、受け手の認識は表現そのものに向かうため、構造としては作風が主体の側、つまりイラストと同じ扱いになる。コーポレートコミュニケーションで使う写真の大半は、被写体が識別できる側に当たる。

イラストは逆の働きをする。受け手はまず「どう描かれているか」を認識する。ピクサーの作品は、キャラクターも世界観も作品ごとに違うのに、どれを見ても受け手は「ピクサーだ」と分かる。描かれた対象より先に、作風がブランドとして立ち上がる。イラストは、作風を主体として認識させる形式だ。

この違いが意味すること

先に断っておくと、写真でも作風はブランドを左右する。木漏れ日の柔らかなトーンで統一されたサイトと、モノクロで統一されたサイトは、違うブランドとして受け取られる。だからこそ写真にも撮る前の設計が要る。その設計は別稿「写真は『撮る』前に『決める』」で扱っている。

写真とイラストで違うのは、作風を変えたときに何が起きるかだ。写真は被写体の同一性が保たれるため、トーンを変えても「同じ会社の、同じ人や商品」として認識が繋がる。印象は変わるが、ブランドの連続性は切れない。イラストでは受け手の認識が作風そのものに掛かっているため、作風を変えると、同じ対象を描いていても別のブランドに見える。水彩タッチを選べば「水彩タッチの企業」として認識され、その作風を後から変えることは、ブランドの一部を作り直すことと同じになる。

第2層の判断軸はここにある。自社のブランドの同一性を、作風に預ける準備ができているか。 準備がないままイラストを選ぶと、意図していなかったブランドが勝手に立ち上がる。逆に、そこまで設計して使えるなら、イラストは写真にない強さを持つ。

4. 富士興産のケース:写真ではなく、アイコン群を選んだ理由

第2層の判断が実際にどう決まるかを、私たちが支援した富士興産のサービスブランディングで紹介する。

この案件は、同社が展開する3つの低炭素燃料事業を、市場で「選べる商材」として再定義するブランド設計だった。エネルギー商材のコミュニケーションで慣例的に選ばれるのは写真だ。プラント、タンクローリー、燃料そのもの。実物があるのだから撮ればいい、という判断は自然に見える。

私たちはここで写真を選ばず、3つの商材を同じ造形原理で描き分けるアイコン群のイラストを設計した。

判断の根拠は印象ではなく、運用の構造だった。

この商材群は、営業資料、Webサイト、展示といった接点ごとに、単体で見せる場面と組み合わせて見せる場面の両方が発生する。写真は被写体を主体として認識させる形式なので、商材Aの写真と商材Bの写真を並べると、受け手には「別々の2枚の写真」として届き、同じ事業体系に属する商材だという構造は写真からは読み取れない。同じ造形原理で描かれたアイコン群なら、単体でも1つの商材として立ち、組み合わせても同じブランドの体系として認識される。

営業資料の中で商材を組み替えて見せる運用にも、描き足しで対応できる。

つまりこの案件では、「柔らかいから」でも「先進的だから」でもなく、接点ごとの組み合わせ展開に耐えるかという基準で、第2層の判断が決まった。

後付けてみれば、ポップだとか、親しみやすいだとかいろいろな解釈を加えられるのだが、実は制作過程では、一度も主観的な印象語の議論を経由していない。

5. 第3層:どの作風か。作風の強さは、ブランドの独立度に合わせる

第2層で「イラスト」と決まったら、最後に「どの作風か」の判断が来る。水彩タッチ、フラットイラスト、手描き風、3D。作風の選択肢は無数にあり、そして第2層で見たとおり、選んだ作風はそのまま自社のブランドになる。

ここでの失敗は「かっこいいから」「話題のテイストだから」で選ぶことだ。問題は、その作風が立ち上げるブランドの強さと、自社がそのブランドをどれだけ独立させたいかが、釣り合っているかどうかにある。

作風の強さと、ブランドの独立度

作風には強さの違いがある。独自性の高い作家的なイラストは強く、記号的で中立的なアイコンは弱い。強い作風ほど、ブランドを明確に立ち上げる力を持つ。

一方で、ブランド側にも独立度の違いがある。単体で世界観を背負う新ブランドは独立度が高く、親会社のコーポレートブランドの中で運営されるサービスは独立度が低い。

この2つを揃える必要がある。独立度の低いサブコンテンツに作家性の強い作風を載せると、受け手の認識の中で「親会社のサービス」ではなく「別の会社のサービス」に見え始め、親ブランドの信頼という資産がそのサービスに届かなくなる。逆に、独立ブランドとして立てたいのに中立的なアイコンで済ませれば、世界観を背負う力が足りない。

富士興産のアイコン群は、この観点では「造形原理の統一」という抑制の側に設計している。個々のアイコンが作家性で立つのではなく、同じ原理で描かれていることが商材識別と事業体系の両方を支える。作風の強さを商材の識別に必要な水準に留め、ブランドの主役は商材の体系そのものに置いた。

なお、コーポレートカラーの選定にも同じ形の判断がある。色そのものより、自社の事業のあり方から色の役割を決めるという考え方は別稿「コーポレートカラーは何を基準に選ぶか」で整理している。

第3層の判断軸:このブランドを、どれだけ独立させたいか

独立度が高ければ、強い作風を選ぶ。独立度が低ければ、作風を抑え、親ブランドの視覚言語に寄せる。作風サンプルの見栄えからではなく、ブランドの位置づけから作風の強さを決める。

6. まとめ:ブランディングのビジュアルを決める順序

ここまでの3つの判断を、実行すべき順番で並べる。

KEY TAKEAWAYS

  • 1. 第1層:読者は、このサービスやブランドの概念をすでに知っているか 知らない読者にはテキスト優位で概念理解を優先する。知っている読者にはビジュアル優位で世界観を打ち出す。

  • 2. 第2層:受け手に何を主体として認識させたいか 被写体を主体にするなら写真。作風を主体にするなら、作風でブランドが決まることを引き受けてイラストを選ぶ。運用(単体か、組み合わせか、媒体展開)まで含めて判断する。

  • 3. 第3層:このブランドをどれだけ独立させたいか 独立ブランドなら強い作風、親ブランドのサブコンテンツなら作風を抑えて親の視覚言語に寄せる。

  • 4. 印象語が出たら、どの層の話かを確認する 「柔らかくしたい」は多くの場合、第3層の作風の議論である。第2層の形式の議論に持ち込まない。

この順序を踏まずに「イラストか写真か」だけを決めても、ビジュアルは完成する。サイトは公開され、資料は納品される。ただしその場合、自社が何のブランドとして認識されるかを、選んだ作風に委ねたことになるので注意が必要である。

AUTHOR記事の執筆・監修
古山 恵理

古山 恵理

CEO / Strategic Director -undergraffiti. Ltd.

東京大学公共政策大学院修了(MPP)。官公庁・上場企業にて経営戦略・IR・サステナビリティ領域のアナリストを歴任。高い開示要求にさらされる業界の現場で「伝える責任」の実務を積んだ後、2020年に独立。大手通信・エネルギー企業等に対し、ブランド戦略から情報設計・体験設計・運用改善までを一気通貫で支援。現在はコーポレートコミュニケーションの戦略設計を専業とし、上場企業のIRサイト・統合報告書・コーポレートサイトの編集戦略ディレクションを手がける。

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