
IRサイトはAI検索にどこまで対応すべきか

- IRサイトのAI検索対応では、技術的な整備と、掲載する内容を分けて考える必要がある。Googleの説明では、AI検索向けの特別なマークアップは不要とされている。一方、私たちが東証プライム・スタンダードの3,104社を調査したところ、IRサイト内に事業内容や強みを説明するページへの入口を検出できなかった企業は、それぞれ67%、77%だった。まず確認したいのは、主要な財務情報を探しやすく比較しやすい形で掲載しているか、事業や戦略を説明する常設ページがあるかという点である。そのうえで、戦略の狙いや経営判断の理由を具体的に書く。AIへの対応を検討する前に、投資家が会社を理解するための説明が揃っているかを見直したい。
1. AI検索対応の相談が、社内から来るようになった
「IRサイトはAI検索に対応できていますか」という問いを、上長や取締役から受けるIR担当者が増えている。2025年には制作会社から提案されていたAI検索対応が、2026年には社内でも話題になっている。ChatGPTやGoogleのAIモードで自社名を打ち込んだ役員が、返ってきた要約の薄さに不安を覚えるためである。
私たちは、技術的な整備と、掲載する内容を分けて考えている。前者については、新しい技術投資を急ぐ根拠は薄い。後者については、東証プライム・スタンダードの3,104社を調べたところ、多くのIRサイトにAIが読む以前の問題があった。そこは急いだほうがよい。
2. AI検索対応は、どの整備にどこまで予算をかけるかの問題である
最初に決めるべきなのは「対応するか」ではない。AI検索対応と呼ばれる作業のどの範囲に予算をかけ、どこから先を別の仕事として扱うか、という線引きである。
理由は単純で、AI検索対応という言葉が指す範囲が広すぎるためだ。構造化データの整備、PDFのHTML化、サイト内検索の改善、要約されやすい文章構造、さらには「AIに引用される文脈づくり」まで、すべてが同じ名前で呼ばれている。対応範囲を決めずに発注すると、見積もりは技術項目の積み上げになり、予算の判断は制作側の提案に委ねられる。
私たちは、整備する情報を二つに分けて考える。一つは、財務指標や開示日程など、探しやすく比較しやすい形に整える基礎情報。もう一つは、戦略の狙いや経営判断の理由など、企業自身が説明すべき内容である。以下では前者を「基礎情報」、後者を「説明」と呼ぶ。この区別が、以降の判断すべての基準になる。

3. 「AI検索対応は新しい技術」という前提を外す
前提から確認する。Googleは2026年5月に生成AI機能向けの最適化ガイドを公開し、7月に更新している。内容は明快で、AI OverviewsやAIモードは通常の検索ランキングと同じ仕組みの上に動いており、llms.txtのような新しいファイルや特別なマークアップは不要だと明記されている。同時に、ガイドが重視するのは「他では手に入らない、独自の視点を持つコンテンツ」である。
Googleの説明に従えば、AI検索向けに専用のファイルや特別なマークアップを用意する必要はない。従来の検索に向けた基本的な整備が、AI検索でも重要になる。
もうひとつ、2026年に入って動いた仕組みがある。読者が自分で「優先して表示するサイト」を登録できる優先ソース(Preferred Sources)機能が、5月にAI OverviewsとAIモードに拡大され、8月にはサイト側が設置できる登録ボタンが追加された。この機能は、読者が情報源として選んだサイトを表示に反映するものである。技術で表示を取りにいく余地より、読者に選ばれるかどうかの比重が増している。
ChatGPTやPerplexityのような検索外のツールは、Googleとは別の仕組みで動く。ただしこれらも、公開されたテキストを読んで要約する点は同じで、読める形で書かれていない情報を補ってはくれない。
4. AIが読む以前に、事業や戦略を説明するページがない
ここからが本題である。AI検索対応を考える前に、上場企業のIRサイトが今どういう状態にあるかを、数字で見ておきたい。
私たちは2026年9月、東証プライムとスタンダードに上場する3,104社のIRサイトを機械的に調査した(undergraffiti.調べ)。判定はURLやリンク名に基づく機械判定のため、別ドメインのページなどを検出できていない可能性がある。取得できなかったサイト(全体の約6%、主にアクセス遮断)も未検出に含めている。以下で「検出できなかった」と書く数値は、ページが存在しないことを必ずしも意味しない。
まず、見た目の問題はほぼ解決している。トップページにPDFの一覧がずらりと並ぶ、見るからに「PDF置き場」というサイトは少数派になった。日本IR協議会の第33回IR活動の実態調査(2026年5月、948社回答)では、IRサイトのスマートフォン対応は97.3%に達している(企業の自己申告による調査で、回答企業はIRに熱心な層に偏る)。ツールとCMSの普及で、IRサイトの体裁は整った。2010年代のリニューアル提案で使われた「御社のサイト、PDF置き場になっていますよ」という指摘は、見た目のレベルではもう当たらない。
中身で見ると、話が変わる。決算資料などのPDFとは別に、事業の特徴や戦略、経営判断の理由を説明する常設のHTMLページ(以下、「語る場所」と呼ぶ)の有無を調べると、次のようになった。
IRサイト内に、事業内容や強みを説明するページへの入口を検出できなかった企業は、プライムで67%、スタンダードで77%だった(コーポレートサイト側の事業紹介は数えていない。また、入口の有無を見ており、戦略や判断の理由が書かれているかまでは判定していない)。東証が要請する資本コストや株価を意識した経営については、東京証券取引所の開示企業一覧表(2026年7月末時点)で開示済みとされる企業のうち、サイト上に常設ページを確認できなかった企業が、プライムで9割超(92.6%)、スタンダードで94.1%に上る。常設ページを確認できた企業に限っても、スタンダードでは6割近く(58%)がHTMLではなくPDFに直接リンクしていた(プライムは25%)。個人投資家向けのページを検出できなかった企業は、プライムで約半数(50.1%)、スタンダードで7割超(74.1%)だった。


数字が示す構図は明確で、多くのIRサイトは「開示物の置き場、会社概要、IRカレンダー」の三点で構成された、見た目の整ったPDF図書館になっている。
たとえば、スタンダード上場のある企業は、2025年に新しいテンプレートでIRサイトを開設していた。デザインは新しく、スマートフォンでも読みやすい。しかし事業を語るページはなく、資本コストへの考え方は決算説明資料のPDFの中にだけあり、サイトが更新されるのは決算の時期に限られていた。私たちが支援に入ったとき、最初に着手したのはデザインでも構造化データでもなく、「この会社は何で稼ぎ、何に投資するのか」をHTMLで書く場所を作ることだった。
この状態でAI検索対応を議論しても、順序が逆になる。AIは読める文章を要約する道具であり、書かれていないことは要約できない。
5. 主要な財務情報の整備を、基本要件にする
ここで、AI検索対応としてよく挙げられる「構造化マークアップ」「PDFのHTML化」を、私たちの区別に位置づけておく。これらは基礎情報の整備にあたる。実施範囲と優先順位は決める必要があるが、やるかどうかを長く議論する対象ではない。基本要件として扱う。
IRには一般の企業サイトと違う事情がある。投資家は一社を深く読む前に、多数の企業を並べて比較する。日本の上場企業は2008年から財務諸表のXBRL形式での提出が義務化されており、法定開示の財務データはすでに機械可読になっている。機関投資家やアナリストがLLMを使って企業横断の分析を進めている今、自社サイト上の数値が整っていないと、サイトから情報を抽出したり、他社と比較したりする際の負担が増える。
一般のサイトでは、テンプレートに沿った標準化は個性を削るデメリットとして語られる。IRでは逆で、基礎情報の標準化は投資家による企業間の比較を助ける。財務指標、開示日程、株主還元方針の数値、資本コストの算定方法は、定型に整え、PDFに加えてHTMLでも確認できるようにしたい。
私たちがIRサイトの制作で使っているCMSも、この考え方で設計している。開示物をPDFとして置く機能に加えて、事業や戦略をHTMLで掲載・更新できる機能を、最初から分けて持たせている。
6. 掲載方法が標準化されるほど、違いは説明の中身に移る
基礎情報を整えた先に、何が残るか。
財務情報の掲載方法が標準化されるほど、情報を掲載するだけではサイトの違いを出しにくくなる。残るのは、その数値の背景にある判断である。なぜこの事業構成なのか、なぜ今この投資なのか、なぜこの水準の還元なのか。AIは数値を抽出できるが、書かれていない判断の理由は伝えられない。投資家がIRサイトを訪れる理由は、この説明にある。
投資家がどのように情報を集めているかも確認しておきたい。野村インベスター・リレーションズの調査(2025年12月、投資経験5年以上の331名)では、投資判断にAIを使っていない人が75.5%を占めた(モニター調査のため、傾向値として扱う)。同じ調査で、個人投資家が投資判断で最も重視するのは「成長性・将来性」(32.3%)で、財務指標(15.7%)の倍以上だった。投資したくなる企業の条件では「透明性」が41.1%で首位に立つ。投資家が求めているのは、数値の先にある将来の説明と、判断の理由の開示である。

企業側の動きは別に見ておく。前出の日本IR協議会の調査では、1年前より生成AIの利用頻度が増えたとの回答が80.3%で、用途は資料の要約・整理(80.5%)が最多、英文開示資料の作成も63.7%に上る。企業側の実態調査であり、投資家側の数値ではない。企業ではAIの利用が広がり、個人投資家ではまだ広がっていない、という状況が読み取れる。

機関投資家側でも見ておく。生命保険協会の2025年度アンケート(投資家向け集計、2026年4月公表、回答78社)では、対話で統合報告書を活用する機関投資家が82.0%に上る一方、東証要請への企業対応について「開示をベースに対話まで進んだ」と評価する投資家は16.7%にとどまる。資料の提供が、十分な対話につながっているとは限らない。
7. 財務情報は比較しやすく整え、判断の理由は具体的に説明する
区別を誤る典型が二つある。ひとつは、説明まで定型化してしまうケースで、「当社の強みは技術力と顧客基盤です」という、社名を隠せばどの会社にも当てはまる文章になる。もうひとつは、基礎情報を定型化せずに個性を出そうとするケースで、独自の指標名や独自の表組みが企業間の比較を妨げる。前者は説明の失敗、後者は基礎情報の失敗であり、どちらもAI以前の問題である。
たとえば資本コストの開示なら、算定方法と数値は定型で書き、なぜその目標を設定したのか、達成に向けてどの施策を進めるのかは自社の事業構造から書く。PBR1倍割れ企業が最初に見直すべきコミュニケーションで書いたとおり、後者を書いていない企業では、開示はあっても対話が始まらない。
私たちは、IRサイトの説明を5つの観点、計15項目で診断している。確認するのは、資本コストとPBRの説明の一貫性、成長戦略の説明の筋道、個人投資家にとっての情報の探しやすさとわかりやすさ、非財務の取り組みと企業価値のつながり、継続的な更新体制である。項目の網羅性そのものは採点しない。投資家が事業や経営判断を理解できる説明になっているかを見る。詳しくは、IR・開示領域のサービスページで紹介している。
なお、5つの観点のうち更新体制だけは基礎情報に近い。主要ページが12か月以内に更新されているか、決算発表からサイト反映までに何営業日かかっているかは、AIにも投資家にも読まれるための最低条件になる。決算などの締切だけをきっかけに更新している状態がなぜ生まれるかは、IRサイトのリニューアルは、なぜ「同じサイト」を作り直してしまうのかで別に書いた。
8. AI検索対応の前に確認すること
AI検索対応の相談を受けたとき、私たちが最初に確認するのは次の4点である。社内で検討する際の判断基準として使ってほしい。
KEY TAKEAWAYS
事業や戦略を説明する常設のHTMLページがあるか。決算説明資料のPDFの中にしかないなら、AI対応の前にその場所を作る。
主要な財務情報を探しやすく、他社と比較しやすい形で掲載しているか。
戦略や経営判断の理由を、自社の事業に即して説明しているか。社名を隠しても成立する文章が残っていれば、書き直しの対象になる。
決算時だけでなく、戦略や方針の変更時にも更新できる体制があるか。
この確認をもとに、HTML化する情報の範囲、構造化データの実装、CMSの要件を決める。
3,104社を調べて見えたのは、見た目の問題ではなく、説明の場所の問題だった。PDF図書館かどうかは、見た目だけではわからない。決算資料を探せるだけでなく、事業や戦略の説明を読めるか。戦略や方針が変わったときに、その説明も更新されているか。AI検索への対応を考える際にも、まずはこの二つを確認したい。自社だけでは判断しにくい場合は、IR・開示領域の診断をご利用いただきたい。



